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ことばの色彩 [生地-その他]

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ほんの数メートル先の舞台にその青年は立っていた。
私の席は、スタンドマイクがちょうど彼の口元を覆い隠してしまうくらい真正面。
「風のクロマ」の名の通り、視覚だけでなく聴覚にさえも色彩が溢れて届いてくるように、誠実で謙虚で一生懸命。素敵な素敵なライブだった。

3年ほど前、「これ、絶対聴いてね」と娘に手渡されたアルバムがレミオロメンとの出会い。
以来、車の中にもiPodにも、彼らの全ての曲が入っている。
彼らの曲を聴いていると、歌というものの中に息づく美しい「詞(ことば)」に感動する。
ずっと若いときに出会っていても、きっと好きになっていただろう。
でもこの歳になったからこそ、何か深く深く響いてくるものもある。
今日はそんな思いを改めて間近に感じてきた。

私の住むこの土地で大学時代を過ごしたという藤巻くん。
もしかしたらその頃、もっと近い距離ですれ違ったこと、あったのかも・・・

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本日ご紹介の生地は、USA、Timeless Treasures Fabrics社の"A Wing and a Prayer"コレクション、Toni Kay and Jenny Foltzによるデザインのカラフルなドットのプリント。
背景に描かれた翼のような模様。翼も明るい色彩も、今日のキーワードです。

枕辺の人 [生地-その他]

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「死にたいなんて言っちゃ駄目だよ、桜の咲く頃にはきっと元気になれるから…ってね、そこに立って私に言ったのよ。」
ベッドの枕元の白い壁を、細く骨張った指で差しながら義母が言う。
「へえ。誰が?」
「うん、ぜんぜん知らない男の人なんだけどね…」

昨年から突然痴呆の症状を呈しはじめた義母を介護している。
介護とは言っても、持病の内臓疾患の悪化も重なって入院しているので、病室を訪ねる午後の間だけ身の回りの世話をしたり話し相手をしたりするのが今のところの私の役目だ。
虚ろな目で何もかもわからなくなってしまった入院当初と比べてずいぶん落ち着いてきたものの、日によって状況は変わるし話の内容も思い切り怪しい。
今日はわずか30分くらいの間に、もうこの話を3回もしている。

枕辺に現れた妄想の中の誰かに、義母はそんな慰められ方をしていたのだという。喜怒哀楽の表現も曖昧になった義母が、独り天井を見つめながら「もう死んでしまいたい」などと考えることがあったのかと思うと、驚きとともに胸が痛んだ。

「でもねぇ、その人さっき慌てて帰っちゃったのよ。」
「そっか。会いたかったな、私も。」

こんな穏やかな会話をしているとき、義母は童女のような笑顔を見せる。
ああ、今日は良かった。溌剌と元気だった頃の表情とは違うけれど、人は笑顔になるとき必ず心のどこかに灯りが点っているのだ。
義母さえも知らないという枕元に現れてくれたその男性に、私は心の中で感謝を捧げずにはいられなかった。

結局その話を10回以上も繰り返し聞きながら一緒の時間を過ごし、また明日ねと別れを告げて外に出る。病院の駐車場には大きな桜の木。まだ蕾と呼ぶにはあまりに小さい無数の膨らみが、夕暮れの空にさしのべるように延びた枝々のシェイプを曖昧にぼかし、どこか優しいシルエットに見せている。

あれは義父だ…

梢を見上げていた私の胸の中に、不意にコトンと音を立てるようにその確信がおさまった。
もう20年近く前に亡くなった義父が、死にたいと呟く妻を心配して訪ねてきたのか。あるいは、もう記憶や思索の大半を闇の彼方に置き去りにしてきたはずの義母が、懐かしい夫のおとないを妄想のうちに求めたのか。
痴呆とは何? 正常であることとは何? 人の想いとは何? 
肉体も精神も、衰え、やがては滅びてゆく。こがれるほどに人を慕った想いは、そのときどこへ流れ着いていくのだろう。
しだいに闇の中に溶け込んで見えなくなる桜の枝先のように、私には答えなど見つからない。

多分義母はこんな日々を重ねながらゆっくりと、でも確実に人生の終焉へ向かっての道を辿ってゆくのだろう。
桜が咲く頃になっても回復など望めない。
だから桜が咲いてしまったら、今度は違う何かでまたお義母さんを励ましに来てあげてね、お義父さん。

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本日ご紹介の生地は、USA、Robert Kaufman Fabrics社の"Whispering Woods"シリーズから、空に浮かぶ木立のシルエットが美しい幻想的なプリントです。デザイナーのSandra Banavaさんによるこのシリーズは、美しい自然のひとコマを切り取ったようなダイナミックな構図から繊細なモチーフまで、鮮やかなのに優しい色彩で描かれた魅力溢れる生地たちばかりです。
こちらの生地は夜明けの空を描いたもののようですが、私の見た情景に重なるものがあったので…


No return is necessary [生地-その他]

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行かないわけにはいかない。
久々に朝から夜までタイトなスケジュールで埋まっている一日であろうと、今日は今日。
繰り合わせた時間の合間をぬって、シートに収まりの悪い帯の背を気にしつつ車を飛ばす。

激しい風が、健気に春を待つケヤキの裸木を絶え間なく揺らし続ける。
足下に描かれたレースのような木漏れ日を目で追えば眩暈がするほどに。

外光が途切れる部屋の隅の空間あたりに、気づかれずに溶け込んでしまうのもいい。
ビターチョコのような深い地色の小紋、帯は錆び朱のアラベスク、あくまでも沈んだ色調で。
白い半襟にだけ、桜の刺繍で微かに春を薫らせて、視界の端の端にすっと静かに佇む。

ちょっと驚いた顔をなさいましたね? そう。それだけで充分。
私からの形のない贈り物が、あなたの手に渡った一瞬。
商業主義に踊らされることなく、この日を密やかに楽しめる大人の女でありたい。

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本日ご紹介の生地は、このブログ初登場のポリエステル。植物をモチーフにしたようなオリエンタル調の柄で、数年前にオークションで入手した国産生地です。大阪で繊維業を営んでいらっしゃったという出展者の方には、この他にも50cm四方ほどの様々なサンプル生地をお譲りいただきました。その中でもこの生地は全く同じ柄でサテンのようなハリと光沢のある生地と薄いジョーゼット生地の2種類があり、組み合わせによって面白みのある作品ができそうだと大切にしていたものでした。今回和装用に小さなバッグを仕立ててみましたが、持ち手部分を変えれば洋装のセミフォーマルにも使えそうな、落ち着いた華やぎのある雰囲気に仕上がりました。

貴石の時間 [生地-その他]

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しんと底冷えのする日曜日、知人の主催する企画展を拝見した後、思いもかけずお茶室にお招きいただいた。外の寒さを忘れるくらい暖められたお部屋、ご一緒した武道のお師匠様の下座にちょっと緊張して正座する。
器に盛られた美しい彩りのお菓子には、不意にお茶席に招かれるお客さまのためにすでに懐紙が添えられていて、どんなときもバッグに懐紙をしのばせている私としては、その出番がなくてちょっと残念!しかも懐紙を冬ものからお雛様の優しい絵柄に代えたばかり。お茶席に限らず日常的にもさりげなく懐紙を使いこなしましょう、という主義であっても、やはりこの懐紙は本来のお茶席で最初に使ってみたかった…。
ご亭主はきりりと着慣れた佇まいの袴姿。雪輪の袱紗を流麗に捌いて、ひとつひとつの所作も淀みなく美しく、少々お歳を重ねられた男性のお点前も素敵なものだなぁと目を奪われてしまう。上座のお師匠様には力強く個性的なシェイプの織部、私には暖かみのある白色をした小さめの志野に、濃緑の泡がふっくらと立って供される。ものすごく久しぶりの体験に多少戸惑い、不調法ながらも美味しく頂戴した後、ご亭主にお教えいただきながらそれぞれのお茶碗をじっくりと鑑賞する。照明を受けて虹色の光を宿す口造り、釉薬が硝子のように留まる高台。お茶碗を交換してもう一度拝見…。茶道具や掛け軸のお話から刀の話まで、ご亭主とお師匠様の問答は時を忘れて盛り上がり、お二方それぞれの博識ぶりをただ私はうなずきながらニコニコして伺っているばかり(それしかできな〜い ^^;)。

お茶の席には「グレー」が存在する。白黒つけないで、グレーのまま…
そんなご亭主の言葉が印象的だった。
命のやりとりをする武士の道とともに続いてきた茶の道。だからこそ長い時の中で紡がれるべくして紡がれてきた「救い」は、今の時代にもちゃんと存在しているのだろうか。

夕暮れが近づく。
異次元空間に迷い込んだような、なんとも優雅で思い切り贅沢な時間。
たいへんけっこうなお服でございました...

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本日ご紹介の生地は、USA CRANSTON社のMary Engelbreitのコレクションから、ラズベリー色のジュエリー柄です。洋のモチーフなのに、細かく散りばめられた宝石の柄はどことなく和の趣も感じられるような気がします。
クリスマスミュージアムショップでは2009年の頒布会もスタートし、今年新登場の「懐紙と懐紙入れの会」では、日常生活にもっと懐紙を活用しましょう!と力説している私、上記のお茶席で登場のチャンスがないまま私のバッグの中にあったのは、まさにこの生地の懐紙入れでした。「懐紙と懐紙入れの会」第1回目の頒布では、淡い色調でお雛様が描かれた懐紙を収めてお届けしています。


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